非エンジニアのための社内承認フロー効率化:ノーコード・ローコード活用術
はじめに
日々の業務において、社内申請や承認プロセスは欠かせないものです。しかし、その多くは手作業やメールのやり取りに依存し、多くの時間と労力を費やしている実情があるかもしれません。非効率な承認フローは、業務の停滞、ミスの発生、さらには社員のモチベーション低下にもつながることがあります。
本記事では、プログラミングの知識がないビジネスパーソン、特に営業企画などの部門で業務効率化に関心をお持ちの方々に向けて、ノーコード・ローコードツールを活用した社内申請・承認プロセスの効率化アイデアと具体的な事例を紹介します。これらのツールを用いることで、複雑な業務フローをスマートに変革し、生産性向上を実現する方法を探ります。
社内申請・承認プロセスにおける課題
多くの企業で、社内申請・承認プロセスには共通の課題が存在します。
- 手作業による煩雑さ:
- 紙の申請書への手書き記入や、Excelファイルでの管理は、記入ミスやデータの不整合を引き起こす可能性があります。
- 書類の印刷、押印、回覧といった物理的な手間も、申請者や承認者の負担となります。
- 進捗状況の不透明性:
- 申請が現在誰のところで止まっているのか、いつ承認されるのかが見えにくいため、申請者は状況確認のために個別に問い合わせる必要が生じることがあります。
- 承認者も大量の未承認案件を抱え、優先順位付けが困難になる場合があります。
- 承認ルートの複雑化と遅延:
- 申請内容や金額、部署によって承認ルートが異なる場合、適切な承認者への振り分けに手間がかかり、プロセスが停滞しやすくなります。
- 承認者の不在や見落としが、全体の業務遅延につながることも少なくありません。
- 過去データの活用不足:
- 承認された申請データが散在しており、後から分析や参照がしにくい状態にあるため、経営判断や業務改善に活かせないという課題もあります。
これらの課題は、日々の業務効率を著しく低下させ、企業全体の生産性に悪影響を及ぼす可能性があります。
ノーコード・ローコードによる解決策
ノーコード・ローコードツールは、プログラミング知識がなくても、視覚的な操作やシンプルな設定でアプリケーションやシステムを開発できるプラットフォームです。これらを活用することで、上記のような社内申請・承認プロセスの課題を効果的に解決できます。
- 申請フォームのデジタル化:
- 直感的な操作で、必要な項目を網羅したデジタルフォームを作成できます。これにより、記入ミスを削減し、必要な情報を漏れなく収集することが可能になります。
- 入力されたデータは自動的にデータベースに保存されるため、管理が容易になります。
- ワークフローの自動化:
- 申請内容や条件に応じて、承認ルートを自動的に設定し、適切な承認者へ自動通知する仕組みを構築できます。これにより、承認ルートの迷いや手作業による振り分けの手間がなくなります。
- 承認者へのリマインダー通知設定も可能で、承認遅延のリスクを軽減します。
- 進捗状況の可視化:
- 申請の現状(未承認、承認済み、差し戻しなど)をリアルタイムで確認できるダッシュボードや一覧画面を構築できます。
- これにより、申請者、承認者、管理者全員が進捗を把握しやすくなり、問い合わせの手間が削減されます。
- データの一元管理と活用:
- 申請データは一元的に管理されるため、過去の申請履歴を簡単に検索・参照できます。
- 蓄積されたデータを分析することで、特定の申請が多い傾向や、承認に時間がかかっているボトルネックの特定など、業務改善のための示唆を得ることも可能です。
具体的な活用事例と導入アイデア
ここでは、非エンジニアのビジネスパーソンがノーコード・ローコードを活用して社内承認フローを効率化する具体的なアイデアをいくつか紹介します。
1. 経費精算プロセスの効率化
多くの企業で手作業で行われがちな経費精算は、ノーコード・ローコードの導入により大幅に改善できます。
- 現状の課題: 紙のレシートと精算書の提出、手入力による集計、上長への承認依頼、経理部での確認作業など。
- ノーコード・ローコードでの実現:
- 申請フォームの作成: Google Forms、Typeform、JotFormなどのツールで、日付、費目、金額、用途、領収書添付(画像アップロード)などの項目を含む経費精算フォームを作成します。
- データの一元管理: フォームから送信されたデータは、自動的にGoogle SheetsやAirtableといったスプレッドシート型データベースに蓄積されます。
- 承認フローの自動化: ZapierやMake(旧Integromat)のような自動化ツールを利用し、以下のフローを構築します。
- フォーム送信時に、申請者の上長にSlackやメールで承認依頼の通知を自動送信します。
- 上長が承認(または差し戻し)のアクションを行った場合、その結果がデータベースに反映され、申請者と経理部に自動通知されます。
- 特定の金額を超える申請には、さらに上位の承認者を追加するなど、条件分岐を設定することも可能です。
- 経理システムへの連携: 承認済みのデータをCSV形式でエクスポートし、既存の会計システムにインポートするか、API連携(異なるソフトウェアやサービス同士を連携させ、データのやり取りなどを自動で行う仕組みのこと)が可能な場合は直接連携します。
2. 稟議書・決裁申請のデジタル化
部署内での稟議や決裁が必要な各種申請も、ノーコード・ローコードでスマートに管理できます。
- 現状の課題: 長文の稟議書作成、複数の承認者の回覧、進捗状況の把握の困難さ。
- ノーコード・ローコードでの実現:
- 申請プラットフォームの構築: KintoneやSmartsheet、Monday.comのような多機能なワークフローツールを使用し、稟議書・決裁申請用のアプリを作成します。
- テンプレートの標準化: 申請の種類(例: 設備投資、新規事業、契約締結など)に応じたテンプレートを準備し、必要な入力項目を標準化します。
- 承認ルートの自動分岐: 申請された内容や金額、申請部署に基づいて、システムが自動で適切な承認ルート(例: 部長→役員)を設定します。
- コメント機能と履歴管理: 各承認者は申請内容に対してコメントを残すことができ、すべての承認履歴が記録されるため、後からの確認や監査にも対応しやすくなります。
- 電子署名: 必要に応じて、電子署名機能を持つツールと連携し、オンライン上での法的な承認を実現します。
3. 休暇・出張申請の合理化
人事関連の申請もノーコード・ローコードで効率化が可能です。
- 現状の課題: 紙の申請書やメールでのやり取りによる申請・承認、人事担当者の手作業によるデータ入力。
- ノーコード・ローコードでの実現:
- モバイル対応の申請アプリ作成: Google WorkspaceユーザーであればAppSheetやGlide、Power Appsといったツールを活用し、スマートフォンから簡単に申請できるWebアプリケーションを作成します。
- 申請内容の自動反映: 申請された休暇情報や出張スケジュールは、Google SheetsやAirtableに蓄積され、必要に応じて共有カレンダー(Google Calendarなど)に自動で反映されます。
- 上長への通知と承認: 申請と同時に上長に通知が飛び、アプリ内またはメールから直接承認・否認の操作が可能です。承認結果は即座にデータベースに反映され、申請者に通知されます。
- 人事システムとの連携: 蓄積された休暇・出張データを、人事管理システムへ定期的にインポートするか、API連携を通じて自動で連携することで、人事担当者のデータ入力作業を削減します。
これらの事例は、特定のツールに限定されず、様々なノーコード・ローコードツールを組み合わせることで実現可能です。重要なのは、現在の業務フローを詳細に把握し、どの部分をどのように効率化したいのかを明確にすることです。
導入に向けた考慮事項
ノーコード・ローコードツールを導入する際には、いくつかの考慮すべき点があります。
ツール選定のポイント
- 既存システムとの連携性: 現在使用しているOfficeソフト、クラウドサービス、基幹システムなどとスムーズに連携できるかを確認します。API連携の有無や対応している連携サービスの種類が重要です。
- 操作性と学習コスト: 非エンジニアの読者層にとって、直感的で分かりやすいインターフェースであるか、また、学習リソースが豊富であるかを確認します。
- コスト: ツールによっては無料プランから始められるものもありますが、機能や利用者数に応じた料金体系を事前に把握し、予算内で運用可能か検討します。
- セキュリティと信頼性: 機密性の高い情報を扱う場合は、データの暗号化、アクセス権限管理、プライバシーポリシーなど、ツールのセキュリティ対策を十分に確認します。
- 拡張性と柔軟性: 将来的に業務要件が変化した場合でも、ツールの機能を追加したり、カスタマイズしたりできる柔軟性があるかどうかも考慮すべきです。
スモールスタートの勧め
最初から全社的なシステムを構築しようとすると、時間とコストがかかり、失敗のリスクも高まります。まずは部署内の一つの申請プロセスや、比較的シンプルで改善効果が見えやすい業務からノーコード・ローコードの導入を試みる「スモールスタート」をお勧めします。成功事例を積み重ねることで、周囲の理解と協力を得やすくなり、段階的に適用範囲を広げていくことが可能になります。
メリットとデメリット
ノーコード・ローコード導入のメリットは多岐にわたります。 * 迅速な開発と導入: プログラミングが不要なため、開発期間を大幅に短縮し、迅速にシステムを導入できます。 * コスト削減: 外部の開発業者に依頼するコストや、専門のエンジニアを雇用するコストを削減できます。 * 業務改善の促進: 現場の担当者が自らシステムを改善できるため、業務の実態に即した柔軟な対応が可能になります。 * 生産性向上とミスの削減: 定型業務の自動化により、従業員はより戦略的で創造的な業務に集中できるようになります。
一方で、デメリットも存在します。 * 既存システムとの連携限界: 非常に複雑な既存システムとの連携には限界がある場合があります。 * ベンダーロックインのリスク: 特定のツールに依存しすぎると、将来的に他のツールへの移行が困難になる可能性があります。 * 複雑な要件への対応難度: 非常に高度で独自の要件を持つシステム構築には向かない場合があります。 * セキュリティへの配慮: 選択するツールによっては、セキュリティ面での注意がより一層必要となる場合があります。
これらのメリットとデメリットを理解し、自社の状況に合った導入計画を立てることが重要です。
まとめ
ノーコード・ローコードツールは、プログラミングの知識がない非エンジニアのビジネスパーソンにとっても、社内申請・承認プロセスを劇的に効率化する強力な手段となります。手作業による煩雑さ、進捗の不透明さ、承認遅延といった課題は、デジタルフォームの活用、ワークフローの自動化、データの一元管理によって解決可能です。
経費精算、稟議書、休暇申請といった具体的な業務において、Google Forms、Airtable、Zapier、Kintoneなどのツールを組み合わせることで、効率的で透明性の高い承認フローを構築できます。導入に際しては、ツールの選定、スモールスタート、そしてメリットとデメリットの理解が成功の鍵を握ります。
この機会に、日々の非効率な業務を見直し、ノーコード・ローコードの力を活用して、よりスマートで生産性の高い業務環境を実現するための一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。